イーサリアムのAI転換点:ERC-8004「トラストレス・エージェント」標準のその先に注目すべきこと
イーサリアムのAI転換点:ERC-8004「トラストレス・エージェント」標準のその先に注目すべきこと
2026年1月28日、イーサリアムエコシステムは再び大胆な仮説をテストしています――それは「イーサリアムは単なる資産の決済レイヤーではなく、自律型ソフトウェアのための中立的な協調レイヤーである」という考えです。
複数のコミュニティレポートによれば、標準的なERC-8004(通称「トラストレス・エージェント」)のレジストリコントラクトがメインネットでの導入に向けて最終段階に差しかかっているとのことです。なお、ERC標準はコンセンサスアップグレードではなく、ハードフォークも不要です。現実に導入されるかは、各チームが互換性のあるコントラクトやツールを開発・採用するかどうかにかかっています。(odaily.news)
今後、この流れが定着すれば、次に問われるのは「どのdAppを使うか?」ではなく、こうした問いになります:
- どのAIエージェントにタスクを委任するか?
- オープンなマーケットで、どのようにエージェントを発見するか?
- 信頼性の評価、スビル攻撃対策、成果物の確認はどうするのか?
- エージェント同士が支払う必要がある場合(あるいはAPI料金など)、オンチェーンでの自動支払いはどう設計すべきか?
こうした期待と課題を内包しているのが、ERC-8004の本質です。(eips.ethereum.org)
1)「資産決済」から「エージェント協調」へ
2025年から2026年にかけて見えてきた明確なトレンドがあります。それは、ユーザーの意図がより上位レイヤーへとシフトしている、ということです。
DeFiの領域では、「インテント」や「自動化」、そしてワンクリック戦略によって、煩雑な操作が簡素化されてきました。AI分野でも、「モデルコンテキストプロトコル(MCP)」やエージェント間の通信仕様が登場し、ツールやモデル同士のインタラクションの標準化が進みました。
しかし今もなお欠けているのが、組織を横断した、オープンな発見と信頼の仕組みです。
ERC-8004はそのギャップを埋めようとしています。ポータブルなID、公開された評判情報、検証フックといった仕組みを、中立性の高い信頼できるインフラ上に組み込んでいます。(eips.ethereum.org)
2)ERC-8004の標準化内容(と、その対象外)
ERC-8004は、軽量なオンチェーンレジストリ3種類を定義しています。(eips.ethereum.org)
アイデンティティ・レジストリ(発見の出発点)
- エージェントは、ERC-721ベースのレジストリに登録します(つまり、NFTのようなIDになります)。
tokenURIはエージェントカード(オフチェーンが一般的)を指し、機能、エンドポイント、信頼モデルなどを記載。
この意義とは何か?
エージェントの「誰?」という情報を、イーサリアムで親しまれた仕組みを使って検索可能で、移転可能で、インデックス可能にできる点にあります。
レピュテーション・レジストリ(スコアではなく「信号」)
- ユーザー(または他のエージェント)がフィードバック(信頼のシグナル)を投稿できます。
- 集計の方法はオンチェーンでもオフチェーンでも構いません。標準はあくまで共通インターフェースの提供であり、スコアモデルの独占は意図していません。
バリデーション・レジストリ(検証フック)
- 再実行、ステーキングによる保証、zkML証明、TEEによる証明など、様々な検証方式に対応した柔軟な仕組み。
コアの着想:「信頼レベルは、リスクに比例してスケールすべき」
明確に標準化対象外とされているもの:決済
支払いに関しては、意図的に別問題として扱われています。L2、ステーブルコイン、マイクロペイメントなど、多様な仕組みを組み込めるように開かれています。
3)オープンなエージェント経済における「ベストなエージェント」の探し方
AIエージェントが登場する世界での「発見」は、App Storeの検索のような形式ではありません。それは次のような複合的な仕組みになるでしょう:
- オンチェーンのIDレジストリのインデックスイベント
- オフチェーンのクローラーやディレクトリ
- ドメインごとに最適化されたレピュテーションとバリデーションのレイヤー
ERC-8004の設計が現実的なのは、ベースレイヤーを最小化して、複数の「エージェント検索エンジン」が並存できるようになっている点です。
詳しく読みたい方は以下を参考に:
4)エージェントの支払い:なぜ「x402」が注目されているか
2025年、ステーブルコインはインターネットネイティブな決済の基盤として定着しました。そして2026年に問われるのは、「エージェントが自動でサービスに支払うにはどうすればよいか?」という点です。
そこで議論されているのが、Coinbaseが開発をリードしたx402プロトコルです。これは、HTTPの402 Payment Required仕様を復活させたもので、API呼び出し時に支払いを求め、クライアントやエージェントがプログラム的に決済を行う仕組みです。(docs.cdp.coinbase.com)
参考リンク:
Web3ユーザーに重要な理由: 将来の「トランザクション」は、ウォレットUIから始まるとは限りません。エージェント同士がHTTP経由でやりとりし、ステーブルコインで清算するケースが増え、その記録がレピュテーションにも紐づく可能性があるのです。
5)ERC-8004エコシステム:注目すべきプロジェクトと動向
トークンの物語よりも、次のカテゴリが重要になります。
A)公式仕様とコミュニティ拠点
基礎的なインターフェースや互換性の基準となる層:
B)エージェント作成SDKとメタデータの保存
エージェントカードとその情報が長期保存・検証可能であることが前提です。ここではFilecoinPinやOnchain Cloudとの連携が進み、Agent0 SDKのような初期ツールが登場しています。
参考:Filecoin Foundation — ERC-8004 エコシステムページ
C)ディレクトリ、エクスプローラー、そして「エージェントSEO」
トークンリストやブロックエクスプローラーが重要であったように、エージェントレジストリのUXも鍵を握ります。
良質なディレクトリのポイント:
- IDの出所(レジストリ登録情報)の検証ができるか
- レピュテーションスコープ(誰が誰を、何の目的で評価したか)が見えるか
- zkMLやTEE、再実行による検証結果を提示しているか
D)バリデーションネットワークと証明レール
ERC-8004の検証仕組みは「フック」にすぎません。既存の証明系プロジェクトがここで重要な役割を果たします。
特に注目されているのが**Ethereum Attestation Service(EAS)**で、ERC-8004と相性のよい永続的な証明レイヤーです。
参照:Ethereum Attestation Service
E)クロスチェーンID:CAIP-10
エージェントは1つのチェーンに閉じません。実行や決済はL2や他ネットワークにまたがる可能性が高いです。
そこでERC-8004は、アカウントのチェーン非依存形式であるCAIP標準を積極的に採用しています。
参照:CAIP-10仕様
実務影響: エージェントは異なる実行環境でも一貫性あるIDを維持できるようになります。
6)ユーザーとして気をつけるべきこと(セキュリティが最優先)
エージェントが行動や支払いを自動で行う世界では、リスクの所在が「間違ってボタンを押した」から「間違ったエージェントに権限を与えた」に変わります。
以下は現実的な安全ガイドラインです:
-
リスク層ごとに資金を分ける
日常用の軽量ウォレットと、長期保管資産は分離しましょう。 -
明示的な権限と金額上限を設定
無制限な承認は避け、可能なら機能と範囲を絞りましょう。 -
レピュテーションは文脈依存
研究に強いエージェントが、資産保管や取引で信頼できるとは限りません。 -
IDの正当性を確認
Agent Cardのエンドポイントが信頼でき、登録された情報と一致しているか必ず確認しましょう。
7)エージェント時代におけるOneKeyの役割
エージェントが「チャットアシスタント」から「経済主体」へと進化しても、もっとも重要なセキュリティ原則は変わりません。
それは、「プライベートキーを常時オンライン環境に置かないこと」。
ハードウェアウォレットのOneKeyは、以下のような制御点として機能します:
- エージェントが提案する高額取引の確認ボタン
- 日常支払いと長期資産の分離
- オンチェーン調整に関与しつつ、署名キーはオフラインで安全管理
つまり、どれだけエージェントドリブンな仕組みになろうと、「本質的な価値の最終承認」は人間が握ることができるのです。
終わりに
ERC-8004は、いわば**「信頼の配管」です。MCPやA2A、決済プロトコルの代替ではなく、それらのための中立的なID・評判・検証のレイヤー**を提供します。
イーサリアムがこの領域で成功すれば、「新しいdAppを発見する」とは、「新しいエージェントを選ぶ」ことになるでしょう。そして次のUXの飛躍は、ダッシュボードではなく、委任・検証・プログラマブルな支払い体験によって実現されるかもしれません。(eips.ethereum.org)



