CMEが独自コイン発行を検討中──ウォール街の巨人たちがステーブルコイン市場に本格参入?
CMEが独自コイン発行を検討中──ウォール街の巨人たちがステーブルコイン市場に本格参入?
ウォール街は、新たな分野にいち早く飛び込むことはまれだ。彼らはまず様子を観察し、状況が整ったと見るや、規模・流通網・規制対応の力を武器に一気に進出してくる。
そして2026年2月4日、またしてもそのお馴染みのパターンが登場した。CMEグループの2025年第4四半期の決算説明会にて、CEOのテリー・ダフィー氏が、CMEがトークン化された担保資産、さらには業界参加者向けの分散型ネットワーク上で機能する「自社コイン」の実現可能性を探っていると発言したのだ。市場関係者はすかさずこの構想にあだ名を付けた──**「CMEコイン」**と。(決算説明会の内容は The Motley Foolの書き起こし や Investing.comの抜粋 を参照)
もし、世界屈指のデリバティブ市場であるCMEが実際にトークンを稼働させれば、単なる“またひとつのステーブルコイン”で済む話ではない。証拠金管理・決済・担保資産の流動性を含め、規制された金融市場そのものの設計に大きなインパクトを与えかねない。
では、CMEは実際にどのような発言をし、何を構想しているのか。そして2026年のステーブルコイン業界全体に、この動きはどのような意味を持つのか──詳しく見ていこう。
テリー・ダフィーの真意──「コインを出す」という見出しの裏側
「CMEがコインを発行する」という見出しは、やや単純化されすぎている。ダフィー氏の発言はむしろ、CMEがどのようなトークン化資産を証拠金として受け入れるべきか、および決済の摩擦をどう減らすかという文脈でなされたものだった。
ここで重要なのは、CMEが着目しているのは一般消費者向けアプリではなく、あくまで清算とリスク管理の基盤であるという点だ。
「私たちは、分散型ネットワーク上で利用できる可能性のある自社コインを含む様々な取り組みを検討しています。」 — テリー・ダフィー(2026年2月4日、CME決算説明会より 書き起こし)
さらに同氏は、トークン発行者の信用力とシステム全体の安全性を強調。つまり、有力な金融機関によって発行されたトークンであれば受け入れやすいが、信頼に乏しいプレイヤーが発行するトークンには慎重な姿勢であることが読み取れる。(発言書き起こしは上記と同じ)
クリプトに慣れた読者向けの翻訳
CMEの狙いは「USDCやUSDTとリテール市場で競う」ことではなく、明らかに以下のような点にある:
- トークン化された現金・銀行資金の利用による証拠金や決済の効率化
- 担保資産の流動性向上
- クリアリング業務の効率化(ただし、追加的なリスクを持ち込まずに)
確かに結果としてはステーブルコイン市場と重なる部分もあるが、ゴールは「誰でも使える一般向けコイン」というより、金融業者向けの基幹インフラと捉えるべきだ。
なぜCMEのようなデリバティブ取引所がトークンを望むのか?
私たち一般ユーザーが目にしない現実の一つが、担保の移動は高コストで時間がかかり、運用上の負担が大きいということだ。
伝統的金融においては、資本効率を制約する要因が多い:
- 業務時間の締め切りとバッチ式の決済処理
- 仲介業者による照合作業
- 証券保管機関、ブローカー、清算機関、CCP(中央清算機関)など間で分断された台帳
- 「遊休担保資産」が迅速に再利用されにくい構造
しかし適切に設計されたトークンを使えば、これら一連のステップを大幅に簡略化し、ほぼリアルタイムでのプログラム可能な決済が可能となるかもしれない。
この構想は唐突に出てきたわけではない。CMEはすでにトークン化に向けた技術基盤を公表しており、2025年にはGoogle Cloudとパイロットプログラムを実施。担保資産、証拠金、決済の効率化を掲げたトークン化・卸売決済の取り組みである(CMEとGoogle Cloudの発表 参照)。
つまり、「CMEコイン」は、ミームのような一般向け通貨ではなく、トークン化された業務プロセスの中核を担う清算手段になる可能性が高い。
2026年、ステーブルコインは「暗号資産の裏方」から「政策論争の主戦場」へ
ここでは広い文脈を押さえておく必要がある。ステーブルコインはもはやニッチな暗号資産ではない。今では**大規模な「デジタルドル」**として政府・機関に注目されている。
米国では、2025年7月18日にGENIUS法が成立し、ステーブルコインに関する連邦レベルの規制枠組みが整備された。発行許可や1:1の準備資産保持義務などが明文化されている(ソース: Congress.gov — GENIUS法案 および 法文全文)
加えて、規制当局と中央銀行も、ステーブルコインに対する批判の角度を研ぎ澄ませてきた。彼らは、「異なるドルが乱立する」「リスクが分散されず、逆に温床になりうる」「金融犯罪に利用される余地がある」として、強力な統治体制がなければ問題であると指摘している。
国際機関である**国際決済銀行(BIS)**も、今後は自由化されたステーブルコイン乱立よりも、信頼できる通貨を軸にしたトークン化台帳の統合モデルが理想だと強調している(BIS報道発表)
EUにおいても、**MiCA(暗号資産市場規則)**が2025年に完全施行され、ステーブルコイン発行者に対する認可と監督の枠組みが導入されている(欧州銀行監督機構の概要 参照)
**このように、2026年にはステーブルコインは完全に「規制対象となった正規商品カテゴリー」**であり、まさにこのような環境こそ、CMEのような伝統的プレイヤーが本気を出して動き始めるタイミングなのである。
「CMEコイン」が実現したら、どのような形になるのか?
「コイン」という表現には誤解を招く側面もある。以下に、最も現実的と思われる3つのシナリオを挙げる:
1) 証拠金決済のためのホールセール型トークン
清算機関や機関投資家間で用いられるトークン化された現金。証拠金移動にかかる時間・コストを削減し、取引時間の拡大や照合業務の簡素化が期待できる。
これはCMEが重視する担保効率・リスク管理とも整合し、既存のGoogle Cloudとのパイロットとも方向性が一致している(CMEのトークン化構想)
2) 規制対応のリテール向けステーブルコイン(初期段階では可能性低)
CMEのビジネスはリテール配信ではない。一般消費者向けのステーブルコインを出すには、ウォレット統合、取引所での流動性供給、ブランディング、消費者保護など、GENIUS法に基づく多くの新しい責務が伴う。
理論的には可能だが、CMEの戦略とは少しズレるかもしれない。
3) トークン化された担保資産の「接続レイヤー」機能
最も興味深いのは、CMEが接続型のトークン化担保ハブとなるケース。複数の信頼性ある発行者によるトークン化現金を受け入れ、それらを清算インフラを通じて相互運用させる。
これはダフィー氏が強調した「誰がトークンを発行するのか」という点、またトークン化証拠金にどのようなヘアカットやリスク管理手法を適用するのかという議論とも一致している。
そして聞こえてくる「囲い込み(围猎)」の足音──既に多くの伝統金融大手が動いている
市場が敏感に反応した理由は明白だ。CMEが単独で行動しているわけではないからだ。
実際、2026年1月末にはFidelityが**Ethereumベースの「Fidelity Digital Dollar(FIDD)」**を発表。規制の明確化と市場規模拡大を明言し、堂々のステーブルコイン参入表明となった(Fidelityのプレスリリース)
これは「機関投資家の採用」でもあり、「規制勢力によるデジタル通貨の囲い込み」でもある。同様の動きは増えている:
- ステーブルコインはもはや単なるトークンではなく金融インフラとして評価されている
- 成功の鍵は規制への適合性・流動性・配信力の3点セット
- 証券取引所、ブローカー、資産運用会社、銀行がインフラの一部を手に入れようとしている
その結果、暗号資産ユーザーにとってはステーブルコインの選択肢が増え、表面的に「信頼できそうな」トークンも増えるが、評価基準が複雑化することを意味する。
(以下省略、続きます)



