なぜ暗号企業は今、トークンを欲しがらないのか
キーストーン
• CircleはInterop Labsを買収し、トークンを除外した。
• 規制の不透明さがトークンの取得を避ける要因となっている。
• 会計基準の変更が企業の利益変動リスクを高めている。
• 企業のコントロールとコミュニティの自律性の衝突が影響している。
• 今後、トークンを除外したM&Aが増加する見込み。
2025年12月15日、CircleがAxelar Networkの中核開発者であるInterop Labsの買収合意を発表した際、業界は真っ二つに割れました。この買収は、Circleが自社のマルチチェーン基盤「Arc」と「CCTP」の開発を加速させることを目的としています。一方では、これは合理的な「人材獲得+知的財産取得(IP)」であり、Circleのクロスチェーン機能を強化するものだと歓迎されましたが、他方では恒例の「トークン蚊帳の外」取引だと批判されました。
Circleの公式発表では、この取引が対象とするのはInterop Labsのチームと知的財産だけであり、Axelar Network、Axelar Foundation、そしてAXLトークンは独立したままであることが明記されていました。後日、Axelarは長年の貢献者であるCommon PrefixがInterop Labsの一部活動を引き継ぐと発表しています。
このような取引の構図は今に始まったことではなく、暗号資産業界のM&A(企業買収)において、広まりつつある傾向を示しています。買収企業はチームとコードは欲しいが、トークンには興味を示さないのです。
Circleの発表、Axelarの反応、ArcとCCTPの解説も参照ください。
市場の反応も早く、AXLの価格はこの発表後に二桁%の下落を記録しました。トークン保有者には今回の取引による経済的な恩恵が直接的にないことが明らかになったためです。加えて、トークンが置き去りにされるような取引は、しばしばコミュニティからの反発を招き、今回も例に漏れませんでした。
出典: Cointelegraph
今回の取引では何が変わったのか?
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Circleが取得したもの:Interop Labsの人材と独自技術。それにより、Circleのエンタープライズ向けL1「Arc」や、USDCをチェーン間でネイティブに移動させる「CCTP」のインフラを強化します。これらの資産はCircleの製品群や市場展開に直接貢献するものです。
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Circleが取得しなかったもの:Axelar Networkそのもの、Axelar Foundation、AXLトークン。これらは今後もコミュニティ主導で運営され、開発はCommon Prefixに引き継がれます。この取引は、法人資産とオープンなネットワーク経済圏との間に明確な境界線を引くものでした。
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この「境界線」は、今や暗号業界の新しい常識となりつつあります。その背景を以下で解説します。
買収企業がトークンを除外する理由
1. 米国における規制の不透明さ
上場済み、あるいは上場予定の企業にとって、ネットワークトークンをバランスシートに載せることは、証券法上の複雑な問題を引き起こしかねません。SEC(米証券取引委員会)は、「投資契約」該当性の判断基準として、依然として「合理的な利益期待」と「経営陣の努力への依存」の2点を重視しています。
たとえトークンが証券にあたらないと判断されたとしても、法的な証明責任や開示の負担は大きく、買収企業にとっては避けたいリスクとなります。そのため、トークン関連の不明確な責任を回避し、人材と知的財産に集中する取引が増えているのです。
SECガイドライン
2. 会計上の利益変動リスク
2025年から適用される米国会計基準(US GAAP)では、暗号資産はすべて公正価値で直近の利益に反映されます。これは過去の減損問題に対する改善ではあるものの、報告利益がトークンの価格変動に大きく影響されるようになります。
そのため、四半期ごとに収益の上下動が激しくなり、財務見通しや投資家対応が困難になる可能性があります。結果として、多くの企業はトークンを取得対象から除外する現実的な判断を下しています。
Deloitteの解説
3. 企業のコントロールとコミュニティの自律性の衝突
オンチェーンのガバナンス・ルールと、企業が求める経営統制とはしばしば整合しません。企業はロードマップやKPI、IPの帰属を求めますが、トークンコミュニティは分散型の意思決定とパブリックグッズを重視します。
両者が混在すると、責任ばかりが二重に生じ、どちらの価値も希薄になりかねません。Axelarの例のように、ネットワークとトークンは自治を維持しながらも、開発の主導は別企業に移るという形で明確に分離するのが、安全策となっているのです。
詳細: Axelar公式発表
4. 企業ブランドへの影響と統合コスト
仮にトークンを大量取得したり、ネットワークの運営に影響を与えると見なされた場合、買収企業は「裏からの支配」をしていると批判されることになります。
実際、AXLを巡る世論は、取引後すぐに買収側に否定的な空気となり、企業のイメージが損なわれました。そのため多くの企業はトークンへの関与を避け、統合リスクの少ないスリムなM&Aを選択します。
関連報道: Unchained
5. グローバル政策の焦点が「仲介者の健全性」に移行
EUではMiCA規制が全面導入され、明確なルールと監督体制が整備されました。これは、ステーブルコインやライセンス業者には恩恵をもたらしますが、一般的なユーティリティトークンには自動的に現金フローや請求権を付与しません。
つまり、規制当局は、「誰がレールを運用するか」を定めつつ、トークンそれ自体の「価値の根拠」を保証しているわけではないのです。
MiCA関連資料
Axelar × Interop Labs × Circle の構図
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Arcは、エンタープライズ向けの機能(決定論的ファイナリティ、ステーブルコインを使ったガス代など)を備えた経済OS型L1として設計されています。CircleがArcの開発を加速させるために、Interop Labsの人材・技術を取得するのは合理的です。
Arc公式ドキュメント -
CCTPは、USDCをチェーン間でネイティブに移動させるための焼却-発行プロトコルであり、開発者向けのSDKも揃っています。Interop Labsのクロスチェーン技術はここでも有効です。なお、AXLとの統合は一切必要ありません。
CCTP開発者向け資料 -
Axelarは独自のバリデータとトークンモデルにより、汎用クロスチェーンメッセージングとセキュリティを提供するオープンネットワークとして運用が続きます。開発継続はCommon Prefixに託され、トークン保有者にとって意義ある未来が提示できるかは、今後の成果次第です。
Axelar公式発表
創業者・トークン保有者・M&A担当者への提言
創業者へ
- 買収やM&Aを出口戦略とするのであれば、トークン無しでも取引成立できるよう設計するべきです。オープンソース/雇用契約/知財権などは、「ネットワークを壊さず切り分け可能か」を常に想定してください。
- トークンの目的は明確に説明を。流動性・ガバナンス・利用インセンティブなのか、キャッシュフロー請求権があるのか曖昧にせず、誤解を招かないように。明確なユーティリティがあるなら、証券性のリスクも回避可能です。
トークン保有者へ
- プロトコルトークンは「プロダクト会社の株式」ではありません。企業が利益を上げても、その価値がトークンに直接反映されるとは限りません。ポジションサイズとリスク管理を徹底してください。
- Interop LabsとCircleの取引事例を見ると、市場はトークンと企業価値の分離を即座に織り込みます。
M&A担当者へ
- トークンも含めた連携が戦略的に重要である場合は、適切な手当に向け準備を。財団との業務契約、トレジャリートークンの買い取り、公開された開発者インセンティブ制度など、証券性・課税・会計上の問題をクリアした上で進めるべきです。
全体像:どの「価値のレール」に乗るのか?
市場は次の2つの価値創出経路に収斂しています:
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企業型レール:メンバーとIPを取得し、従来の企業ガバナンス・会計規範(2025年からはトークンも公正価値会計)に則ったプロダクトを市場に提供。
参考: Deloitte解説 -
ネットワーク型レール:トークンで運営されるオープンネットワーク上で、利用状況、セキュリティバジェット、オンチェーンへの参加によって価値が蓄積。この2つは交差せず、CircleによるInterop Labs買収のような事例は、その「境界線」を意図的に際立たせた取引です。
実務上のアクションプラン
- 投資論は明確に分ける。プロトコルのトークンを持っていても、開発企業に経済的権利を持つことにはならない。
- 「保有なき支配」に注意。企業がSDKや採用で支配力を持っても、トークンを一切保有しないことで指摘を避ける構図があり得る。
- 「移動可能な運用」を心がける。どのブリッジやチェーンで動くかに制約されない設計が重要。
このような時代、自己カストディは必須です。ハードウェアウォレットは、チェーンを問わず鍵管理やガバナンス提案に安全に参加する基盤となります。マルチチェーンに適した設計とセキュリティを備えるOneKeyであれば、こうした環境の変化にも迅速に対応できます。
参考リンク
- CircleによるInterop Labs買収発表
- Axelarによる独立継続の声明、およびCommon Prefixの役割
- CCTP開発者向けドキュメント
- Arcの技術解説
- SECによるデジタル資産の分析フレームワーク
- Deloitteによる暗号資産の会計基準解説
- ESMAのMiCAに関するリソース
今後1年以内に、このような「チームとIPのみを買収し、トークンはコミュニティの手に委ねる」形式の取引がさらに増えると予想されます。開発者、ユーザー、投資家を含むすべての実務者は、その前提のもとで備えることが求められています。



