Zcash創設者が語るプライバシー、AI、「暗号化されたビットコイン」としてのZECの可能性
Zcash創設者が語るプライバシー、AI、「暗号化されたビットコイン」としてのZECの可能性
暗号資産が誕生してから10年以上が経過した今、私たちは目立たないながらも決定的な分岐点に立たされています。
一方では、機関投資家の資本参入とメインストリームでの流通が加速しており、ETFや規制された取引所、カストディ(資産管理)インフラの整備によって、暗号資産はますますグローバルな金融システムに組み込まれつつあります。他方で、かつてのサイファーパンクの理想──許可不要で真にプライベートなデジタルマネー──は、規制圧力・監視インセンティブ・ユーザー体験の摩擦というお馴染みの壁に直面しています。
こうした中、Zcashの創設者Zooko Wilcox-O’Hearn氏は、最近のBanklessでのインタビューで、「プライバシーはもはやオプション的なものではなく、今再び重要な課題となっている」と語りました。とりわけ、AIがブロックチェーンの監視をスケール可能なパターン認識へと進化させた今、プライバシーは回避不可能なテーマです。インタビューの音源はこちらから視聴できます:Zcash Founder on Privacy, AI, and How ZEC is “Encrypted Bitcoin” (Bankless)。
この記事ではその議論の核心をひもとき、2026年の仮想通貨ユーザーにとっての実際の関心──自己保管、規制リスク、使いやすさ、そしてプライベートな価値移転の未来──とのつながりを探っていきます。
1)AI×パブリックブロックチェーン時代だからこそ、プライバシーが急務に
ブロックチェーンは本質的に透明性をもっています。これは検証可能性を確保するという点で強力な特徴ですが、同時に取引相手やタイミング、支出パターン、そして身元に関する推論まで可能にする、膨大な金融行動の公開データベースを形成します。
AIの登場で変化しているのは、「監視の存在」そのものではなく、その精度とスケーラビリティです。
- アドレスラベリングのコストが激減:機械学習により、アドレスから実在の個人や組織へのマッピングが容易に
- パターン認識の精度向上:たとえ慎重に行動しても、AIは関連性を見抜く
- 誤判定の恒常化:一度ラベリングされたアドレスクラスターは、誤解や危険を招きかねない刻印として機能し続ける
これは、プライバシーが「悪事を隠すため」だけのものではないことを意味します。むしろそれは、通常の商取引の機密性や個人の安全のためのものであり、私たちが給料や家賃、口座残高をインターネット上で公表しないのと同じ感覚です。
それに加えて、世界中で規制の方向性がより厳格化しています。たとえばEUにおける「MiCA」は、2024年6月・12月に主要な施行マイルストーンを迎え、一部のサービスでは2026年7月までの移行期間があります。参考:European Banking Authority overview on MiCA timelines。
一方、米国では、FinCENが「仮想通貨のミキシング(匿名化処理)」を、特定プロトコルにとどまらないAML(マネーロンダリング防止)対策として重視しております:FinCEN notice on CVC mixing。
要点: AIによる分析力が飛躍的に向上し、法令順守が必須となっている今、「公開元帳」が前提の設計はますます“普通ではない”選択肢になりつつあります。プライバシーはこれから、例外ではなく“初期仕様”になるべきでしょう。
2)ZECは「暗号化されたBitcoin」になれるのか?
Zooko氏が用いる“Encrypted Bitcoin(暗号化されたビットコイン)”という表現は、非常に示唆に富んでいます。つまり、ビットコインが“デジタルゴールド”なら、ZECは“暗号化されたデジタルゴールド”を目指すというのです。
Zcashは、以下のように、ビットコインと直感的に共通する特徴をいくつも持っています:
- 発行量上限(2100万ZEC)
- PoW(プルーフ・オブ・ワーク)によるセキュリティ・モデル
- 基本は「お金」として機能することを最重視し、アプリケーション・プラットフォーム化は目指さない
Zcashが異なるのは、それらの取引情報がどこまで公開されるかにあります。Zcashは透明な取引と“シールド(秘匿)取引”の両方をサポートしていますが、将来的には**「デフォルトでプライベート」**を当たり前の感覚として根付かせることを目指しています。プライバシーを「特別な人向けの機能」ではなく、「標準機能」にするのです。
技術的な詳細については、まずこちらを参照できます:Zcash Protocol Specification
「暗号化」=「検証不可能」ではない
よくある誤解ですが、プライバシー・コインは「透明性や責任追跡性を遮断している」と見なされがちです。しかし、Zcashではゼロ知識証明という技術を用いることで、具体的な中身(送金先、金額など)を明かさずとも、全ての取引が正当であることを検証可能にしています。
このような「可視性を不要とする検証性」という発想は、Zcashがしばしばゼロ知識暗号の最先端と並んで語られる理由の一つです。
3)ボトルネックは暗号理論ではなく「ユーザー体験」
Zcashや他のプライバシー技術は、技術としては既に存在しています。問題はそれが普通のユーザーにとって不安定・遅い・扱いづらいものであるという点です。
Banklessでの対談でも繰り返し語られたのは、「サイファーパンク的ツールが普及しなかったのは数学が間違っていたからではなく、“難しすぎた”からだ」という現実です。
プライバシーが本格的に普及するには、以下のような体験が必要不可欠となります:
- 初期設定のままでプライベートが守られる(デフォルト仕様)
- 高速(とくにモバイル端末で)
- 他のアプリともシームレスに連携可能(スワップや決済、ウォレット操作など)
このような改善に向けた取り組みは、Zcashのエコシステム全体にも広がっており、アップグレードの履歴からもその進化が見て取れます:
- NU6:2024年11月23日実装:Zcash NU6
- NU6.1:2025年11月24日実装:Zcash NU6.1
さらに、開発ロードマップでも「プライバシーの実現可能性」だけでなく「日常での使いやすさ」に重点が置かれるようになっています:Electric Coin Co.ロードマップ(2025年10月31日更新)
4)「開発資金問題」とガバナンス:理念と持続性の両立
高度なプライバシー技術も、絶え間ないエンジニアリング支援なしには機能しません。ウォレットのSDK、軽量クライアント、証明システム、監査、プロトコルのアップグレード。これらは全て「日々の投資」によって動きます。
しかしその一方で、
- サイファーパンクコミュニティは、ガバナンスや運営資金の最小化を美徳とする傾向があり、
- 長期的な継続性には、安定した資金調達の仕組みが不可欠です。
Zcashにおける“開発者ファンド”の是非は長年議論されてきましたが、Zooko氏の主張は明快です:「これは政治的妥協ではなく、生存策だった。」資金が切れたプロジェクトは、理想を掲げたままでいつの間にか消えていく運命をたどります。
ファンディングとネットワークアップグレードの関係について知りたい方は、NU6の文脈を参考にしてください:ECCブログ:zcashd 6.0.0とNU6の導入
5)「移動中の価値」か、「保管中の価値」か──現実的なプライバシーの方向性
議論の中で印象的だったのは、「プライバシーとは送金の追跡防止だけでなく、資産そのものの安全保管の話でもある」という考え方です。
この視点が重要なのは以下の理由です:
- 税務申告や法令に沿った利用において、一部の取引が可視化される必要があることは受け入れられる
- しかし、個人の純資産すべてとその使用傾向が永久に公開情報として記録されることは、ほとんどの人にとって耐えられない
ZECが「暗号化されたビットコイン」として評価されるためには、「全てを覆い隠す神話」ではなく、 価値の保存+選択肢の自由+自然な使いやすさという三位一体を実現することでしょう。
つまり、Zcashは全員が「プライバシー至上主義者」になることを求めていません。インターネットでHTTPSが標準になったように、プライバシーも当然の安全基準であるべきだというだけです。
6)2026年のユーザーが注目すべき3つの視点──プライバシー・法令順守・オペレーションセキュリティ
プロトコル開発者ではない、普通のユーザーが重視すべき問いは次の通りです:
A. 実際に「シールド取引」は使えるのか?
- あなたのウォレットはシールド版の取引を安定的にサポートしていますか?
- 手数料、速度、バックアップや復元の体験は納得できますか?
- 送受信・スワップなど、日常動作でメタデータが漏れていないか検証しましたか?
B. 高まる規制環境に対応できているか?
違法行為をしていなくても、プライバシー機能の使用により誤警報や不要なチェックを受ける可能性があります。特に欧州など規制の厳しい地域では、モニタリング・報告義務・事業者へのプレッシャーが日増しに強くなっています。詳細:欧州委員会:金融デジタル戦略 最新情報
C. 「AI時代の攻撃」に対し、鍵管理は万全か?
AIはブロックチェーン分析だけでなく、フィッシングメールやディープフェイク、マルウェアによるウォレット攻撃も進化させています。長期保有資産なら、オペレーションセキュリティは絶対条件です。
ここで必要なのは思想ではなく、自己保管の習慣化です。ウォレットの分離、認証の最小化、アドレス管理の慎重化、オフラインでの鍵保管などが基本となります。
7)「プライバシーがデフォルトの世界」でOneKeyが果たす役割
もしZECが「暗号化されたビットコイン」になるのであれば、その前提となるユーザー基盤も進化する必要があります。それはつまり、ソフトウェアは「デフォルトでプライベートな体験」を、ハードウェアは「堅牢な鍵保管」を提供する方向です。
OneKeyのようなハードウェアウォレットは、その実現に向けた現実的な選択肢といえるでしょう。理由は以下の通りです:
- オフラインでの鍵隔離:秘密鍵をネット接続デバイスに触れさせず署名可能
- オープンソースでの信頼性検証:最小限の信頼で済むのは大きな利点
- 長期保有型のセキュリティ設計:AI時代の攻撃に対し、高い防御性能を維持
要するに、プライバシーが“基本要件”であるならば、安全な自己保管こそがその土台となるのです。
結びに──サイファーパンクの夢は、UIとAIに飲み込まれたのか
サイファーパンクが思い描いた世界は消えたわけではありません。ただし、使い勝手の悪さと監視経済の拡大によって後退していただけです。
Zooko氏の指摘は、AIの進化によって状況が一変したということ。これまでの静的な透明性が、動的な監視ツールに変わった今、プライバシーは再び「当たり前の必需品」へと戻りつつあります。
ZECが「暗号化されたビットコイン」となる未来は保証されてはいません。しかし、そこで描かれる構想は筋が通っています:ビットコイン的な通貨の価値感、現代的な暗号技術、そして高水準なユーザー体験。
2026年になる頃には、プライバシー × 使いやすさ × セキュリティを兼ね備えた通貨こそが、真にグローバルで人々の役に立つ唯一の道となるのかもしれません。



